「自分の全財産を愛人に遺贈する」相続トラブル実話をご紹介
こんな遺言が出てきたら、あなたならどうしますか?
「子どもが2人いるのに、愛人に全部財産を持って行かれたら、明日からどうやって暮らせばいいのかしら・・」
なんだか、ドラマみたいな話ですが実話です。
エピソード
お子さんが2人のいる奥さまの話です。
ご主人が亡くなられました。
でも、そのご主人には付き合って10年になる愛人がいました。
その愛人が、ご主人が残したという「公正証書遺言」を持ってきました。
遺言の内容は「すべての遺産を愛人であるこの女性に譲り渡す」というものでした。
すべての財産とは、預貯金と自宅です。
なので「奥さんとお子さんの住んでいるこのうちから今すぐ出て行って欲しいという」ものでした。
その遺言を見たときは、どんなにショックを受けたことでしょう。
慌てずに、どう対処すればいいのか?
果たして愛人の言いなりになって、家と預貯金の全て渡さなくてはいけないのでしょうか?
いえいえ、落ち着いて順を追ってどうするべきか考えましょう。
相続は「民法」で規定されています
ご主人の遺言がなければ、民法の規定にしたがって、遺産を分配することになります。
具体的には、妻に1/2、2人の子どもに1/4ずつ分配されます。
これが「法定相続分」です。
分け方については、相続人たちで協議して決定することになります。
遺言がある場合には、原則として遺言に記載されたとおりに相続することになります。
そうなると、遺産は全て愛人のものとなるのが原則であり、この奥さま、このままではご主人の遺産を相続できません。
このことから学ぶ、遺言書の種類
この愛人が持ってきたのは「公正証書遺言」でした。
この遺言は、公証役場で公証人に口述し、筆記してもらうものです。
プロが作りますので、漏れがなく、一番「確実な遺言」と言えます。
疑いの余地がないのです。
ちなみに、遺言書には下記の三種類あります。
公正証書遺言
秘密証書遺言
このことから学ぶ、遺留分
「確実な遺言」だから、泣く泣くそれに従わなくてはならないのでしょうか?
いいえ、違います。
遺族には「遺留分」があります。
「遺留分」とは、被相続人の配偶者、直系尊属、直系卑属に留保されている相続財産の割合をいいます。
つまり、奥さん、子ども、親には遺留分があるわけです。
直系尊属、つまり親には1/3、配偶者と子どもは1/2貰える権利があります。
遺留分には、期限があります
遺留分の主張は、相続が開始&遺言の存在を知って自分の相続分が遺留分を超えて侵害されていることを知ってから、1年で消滅時効にかかります。
ですから、遺留分の主張が消滅時効にかかってしまう前に、愛人に対して「配達証明付内容証明郵便」など証拠の残る方法により、遺留分の主張をしておく必要があります。
どういうふうに主張するのか?
被相続人(この場合はご主人です)が愛人に遺贈した結果、相続人の遺留分が不足する場合、奥さんと子どもは、自分の実際の遺留分を限度として、被相続人(ご主人)が行った遺贈及び贈与の「減殺」を請求することができます。
この権利のことを「遺留分減殺請求権」といいます。
相続トラブル実話:結局どうなった?
奥さまが、子供の分も含めて「遺留分減殺請求権」を行使し、相手方がいう事をきかない場合は、訴訟も辞さないと愛人に伝えました。
愛人も付き合って10年だったので、預貯金の一部を渡したことで決着が付きました。
ちなみに、どうなるケースが多いのか?
遺留分については、民法に定める条文が少なく、判例や通説に頼るところが大きいのが現実です。
ですので、遺言の専門家でも非常に慎重にならざるをえません。
不倫な関係にある愛人に対して、財産を贈るという内容の遺言は「公序良俗(こうじょりょうぞく)に反して無効」とされる可能性があります。
ご主人の遺言が愛人との不倫関係の維持継続を目的としてなされたのである場合には、その遺言は「無効」となります。
しかし、晩年を連れ添った愛人の生活を維持するためのものである場合には「有効」です。
愛人への遺言が「有効」か「無効」かは、ご主人が遺言を書いた「目的」などの諸事情から判断されることになります。
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